最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)4166号 判決 1958年3月04日
本籍
朝鮮慶尚北道青道郡豊角面安山洞
住居
新潟県三島郡寺泊町字松沢町
鉄屑商
梁川仙吉こと
梁寅煥
明治四四年五月一七日生
右に対する酒税法違反被告事件について昭和二七年三月四日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用を二分し、その一をは被告人の負担とする。
理由
弁護人林信一の上告趣意第一点について。
論旨は、判例違反をいうが、原審において控訴趣意として主張、判断されていない事項に関する主張であるから不適法であるのみならず、罰金等臨時措置法施行後の犯罪について同法をも適用処断するにあたつては、同法の適用を必ずしも常に示す必要がないことは、すでに当裁判所の判例としているところであるから(昭和二六年(あ)第三九七六号同二七年一〇月二〇日第一小法廷決定、集六巻九号一〇九七頁)、所論は採用できない(なお、論旨引用の各高等裁判所の判決は、当裁判所の前記決定に抵触するかぎり判例としての効力を失つたものである。)。
同第二点、 第四点、第五点について。
同第二点は、単なる訴訟法違反の主張であり(この点に関する原判示は正当であつて、所論のような違法は認められない。)同第四点は、原審で控訴趣意として主張、判断のない法令違反の主張に外ならないものであり(なお、没収を言い渡すためには、その物件が裁判所により押収されている物であることを要しないことは、当裁判所の判例とするところであり〔昭和二七年(あ)五九七七号同二九年三月二三日第三小法廷決定、集八巻三号三一八頁〕、記録によれば、第一審公判において、大蔵事務官須栗久男の作成の臨検捜索顛末書及び差押顛末書が証拠として取り調べられており、これによると、第一審が、没収を言い渡した物件は、いずれも被告人及び第一審相被告人五十嵐丑松が本件密造酒製造に関して使用したもの及びその製造した密造酒の一部の換価代金であることが明らかであるから、本件の没収を違法であるということはできない。)同第五点は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
同三点について。
所論は、原審で控訴趣意として主張、判断を経ていない事項に関する主張であるから、上告適法の理由とならないばかりでなく、第一審判決挙示の証拠及び第一審公判において適法な証拠調の施行された株式会社キクス作成にかかる買収書、大蔵事務官稲生定雄作成の告発書によると、第一審が没収の言渡をなした収税官吏の差し押へた別紙没収物件目録表示一ないし九の各物件は、いずれも被告人及び第一審相被告人五十嵐丑松が共謀の上、本件密造酒の製造に関し使用したもの及びその製造した密造酒の一部の換価代金であつて、被告人梁の所有にかかるものであり、右被告人両名以外の者に属するものでないことを認めることができる(なお、刑法一九条二項の「犯人」には、共犯者も含む。昭和二四年(れ)七六三号同年五月二八日第二小法廷判決、集三巻六号八七八頁、大正一一年(れ)六六〇号同年五月一九日大審院第一刑事部判決、刑集一巻三二六頁等)。それゆえ所論憲法二九条違反の主張は、この点において前提を欠くことに帰し採用のかぎりでない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)